北谷養盛園

四代にわたり松盆栽づくりを受け継ぐ、香川県高松市・鬼無の北谷養盛園。畑で長い年月をかけて育てる黒松と五葉松、その土地に根づく盆栽づくりを訪ねました。

四代にわたり受け継がれる松盆栽の畑づくり

香川県高松市は、日本を代表する松盆栽の産地です。年間を通して雨が少なく、晴天と日照時間に恵まれた瀬戸内の温暖な気候のもと、古くから黒松や五葉松が育てられてきました。

そんな鬼無の地で、四代にわたり盆栽を育て続けているのが北谷養盛園です。

今回私たちBONSAI CLUB TOKYOは、長年畑で育てられてきた一本の五葉松を掘り上げる作業をお手伝いさせていただくため、北谷養盛園を訪れました。

完成した盆栽を見る機会は多くありますが、何十年もの時間を畑で過ごしてきた樹が、どのように掘り上げられ、次の段階へと移っていくのか。その一連の作業を実際に体験させていただきました。
四代目園主の北谷隆一さんによれば、畑で育てた松を掘り上げる作業は、高松の盆栽園で昔から行われてきた仕事のひとつだといいます。

畑で育てるということ

高松盆栽ならではの特徴のひとつが「畑づくり」。

樹を鉢の中だけで育てるのではなく、長い年月を畑で過ごさせながら、幹や根張りをじっくりとつくり上げていきます。

北谷養盛園の畑には、初代、二代目の頃から育てられ、三代目、四代目へと受け継がれてきた樹々が今も残っています。北谷さんによると、畑に植えられた樹の多くは初代、二代目の時代からのもので、現在の世代はその維持管理をしながら、さらに樹を育て続けているといいます。

一面に広がる黒松や五葉松の畑は、圧巻のひと言。

若い樹から、何十年という歳月を重ねてきた風格ある樹まで。長い時間をかけて育まれた松が並ぶその光景は、盆栽を愛する人にとって、まさに夢のような景色です。

一本の樹を長い年月かけて育て、それを次の世代が受け継ぎ、さらに手を入れていく。北谷養盛園の畑には、そうして積み重ねられてきた時間そのものが残っています。

70年以上を経た五葉松を掘り上げる

今回掘り上げるのは、初代または二代目の頃から、70年以上にわたって畑で育てられてきた一本の五葉松です。

もとは黒松の苗木に一、二本の芽を接いだ小さな姿から始まり、長い歳月を経て現在の大きさまで育てられてきたといいます。残されていた昔の写真に写る姿は、今とは比べものにならないほど小さなものでした。

これほど大きな樹を畑から安全に移すため、準備は今回の作業より前から始まっています。

前年の秋には、あらかじめ「根回し」が行われていました。一度根を切ることで新しい細根を出させ、掘り上げた後も樹が活着しやすい状態をつくっておきます。

今回周囲の土を掘っていくと、根回しのあとに伸びた白い細根が数多く確認できました。畑で育った樹は盆栽に比べて根の数が少なく、こうして細い根を増やしておくことが、掘り上げた後の樹を守ることにつながります。

ここからが、今回の掘り上げ作業です。

樹の周囲を大きく掘り進め、畑とつながっている根を少しずつ切り離していきます。底側まで根を処理したところで幹にベルトを掛け、小型の油圧ショベルを使って慎重に吊り上げ、ようやく樹が畑から離れます。

土を含んだその重さは、およそ200kg。

掘り上げた後も、根元の状態を確認しながら余分な土や太い根を整理し、次に植え付けるトロ箱に収まる大きさまで根鉢を整えていきます。

長い年月を畑で育てられた樹が掘り上げられ、根を整理され、一つひとつ状態を確かめながら次の環境へ移されていく。その工程を間近で見ることは、なかなかありません。

一本の樹を受け継ぐ

根を整えた五葉松は、この日、完成した盆栽鉢ではなく「トロ箱」と呼ばれる大きな容器へと植え付けられました。

水はけを確保し、用土を入れ、樹を固定する。そして幹の流れや枝ぶり、見せたい根の位置をさまざまな方向から確認しながら、これからこの樹をどの角度で育てていくのかを決めていきます。

今回、私たちもその作業に加わり、植え付ける角度を決める場面にも参加させていただきました。

長い年月を畑で過ごした樹が土から離れ、ここから盆栽として新たな時間を歩み始める。

その瞬間のお手伝いをさせていただけたことは、私たちにとって非常に貴重な体験でした。

ただ、この日の作業で完成するわけではありません。

植え替えは樹に大きな負担をかけるため、まずはこのトロ箱の状態で最低でも3年ほど育て、十分に落ち着いてから化粧鉢へ植え付けるのが安全だと北谷さんは話します。その間にも、畑では細部まで手を入れられなかった枝を少しずつ整えながら、さらに樹をつくり込んでいきます。

作業の途中、北谷さんが話していた言葉も印象に残っています。

初代や二代目がつくり始めた樹を、孫やひ孫の世代になってようやく作品として仕上げることもある。名品と呼ばれるような盆栽は、一代だけでは築き上げることができないといいます。

時間と手間をかけて樹を育て、手を入れ、その続きを次の世代へと受け継いでいく。

今回トロ箱へ移した70年以上の五葉松も、そこで時間が途切れるわけではありません。先代たちから受け継いだ長い年月の続きを、またここから少しずつ積み重ねていきます。

そうした営みの積み重ねこそが、鬼無の盆栽文化を支えているのだと実感しました。

一本の樹の背景にある年月と、そこに関わってきた人々の想いを知ることができる北谷養盛園。

私たちにとって、盆栽という文化の奥深さと、一本の樹を次の世代へつないでいくことの意味を改めて感じさせてくれた、特別な場所のひとつです。

園情報

北谷養盛園

〒761-8024
香川県高松市鬼無町藤井36-1
TEL:087-881-2924

YouTube

北谷養盛園の鉢上げ作業の様子はYouTubeでもご覧いただけます。